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かいくんのぺ~じ

No.11

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ながれぼしの落ちる場所


「抱いて下さい。」
 宵の口、唐突に部屋を訪れての一言目がこれだ。
 飲み干しかけていた酒が動揺と共に気管に入りかけて盛大に咽せてしまうのも致し方ないというものだと思う。

「ゲホッ……は?おま、なんっ……」
部屋の主たる原田左之助は、一人で何してるんですか?と言いたげに首を傾げる来訪者を見やる。

 藤堂平助。数奇な運命の末このカルデアで再会した――生前からの、想い人。

 それが唐突にそんな事を言ってくるものだから、感情の起伏を抑えるよう訓練された身とはいえ、動揺するなという方が無理な話で。

「……あー……で、いいのか?平助」
「?何がですか」
「その…………抱いて、くれってのは」
「そう言ってるじゃないですか。」

 ほら早く。
 隣に座って、両手を広げてこちらの動きを待つ仕草。
 恥じらいも色気も微塵も感じさせないその様子に、長年の懸想に茹だった頭でも流石に理解できた。

……なるほど、文字通りって事か。コレ。

 年の割に小さな肩を腕の中に抱き寄せてやれば、広げていた腕を満足げに背に回して、肩口に薄氷色の柔い髪を擦り付けては満足げにはふ、と息を吐く気配がする。



 きっと、奇跡のような再会に浮かれていたのだ。
 この儚い幸せの日々に、夢を見る様な穏やかな日々に、絆されていたのだ。

 告げるつもりはなかった想いを、告げた事があった。
 その想いを、藤堂は否定も肯定もしなかった。

「ありがとう、ございます。」
 ただ一言、それだけ。

 愛されたいと渇望するのに、その愛が分からないまま大人になってしまったような彼は、唐突に与えられたそれに、どうすればいいのか分からなかったのかもしれない。

 告げるつもりはなかった、なんて嘯いてはいても、結局は醜い欲の塊だ。
 一度湧き上がった感情はドロドロと溢れ出すように止まらず、小さな背を抱き寄せて衝動的に唇を奪った。

 ただ愛されたいだけの相手に、醜い情欲を向けているのだと、理解させないまま手籠めにしてしまえる程、原田は非情になりきれなかった。

「こういう意味で、言ってんだけど。」
 分かってんのか?と唇が触れる距離で囁き、秋晴れの空の様な蒼い瞳を見つめる。

「……分かっていますよ。僕だって、子供ではありませんから。」
 澄んだ蒼の中に、光が散る。

 長い睫毛が羽ばたく様に上下するたび、瞳の中で星が瞬く。

 余りにも真っ直ぐなその瞳に、よもすればそのまま押し倒してしまおうかと思っていた情欲は呆気なく毒気を抜かれ、勢い任せの告白の返事も聞けないまま現在に至る。

 無論、恋人にすらなれていない関係に進展などあるはずもなく。

 気まずい空気感になる事はなく、それまで通り接してくれるだけでもいいかと半ば諦めの様な境地に至っていた矢先に、先の発言である。

「……で?どうしたよ」
「何がですか?」

 何が、じゃねぇだろうが何がじゃ。
 こんな時間に男の部屋を訪ねて、抱いてくれなんて曰う意味が分からない訳……いや、あるのかもしれない。
 変な所で抜けているというか、欠けている。
 賢く勤勉で思慮深いのに、時折酷く幼い情緒を覗かせる。

 その不安定さも好いてはいたが、それが足枷になる日が来ようとは。

「……会いたくなったから、では…いけませんか?」
 ぽつ、と。
 呟かれた言葉に思考が止まる。

「偶にあるんです、急に人恋しくなる事。」
「今までは、どうすればいいか分からなかったけど……原田さんが、僕を好いていると言ってくれたのを思い出して。」

「そうしたら、抱き締めて欲しくなったので伺いました。」
 ご迷惑でしたか?と聞かれても、適切な返事を返せる程頭が回らない。

 ……望み薄かと諦めるには、まだ早かったかもしれない。

 お望み通りにぎゅうぎゅうと力を込めて抱いてやれば、苦しいですよと苦言を呈しながら、背に回した手は縋り付いて離れようとはしない。

……さて、覚悟してもらおうか。
 白雪に落ちた小さな恋の種が、雁字搦めに根を張り息もできないような情欲の花を咲かせるまで。

 せいぜい、望むままに甘やかしてやるよ。
 何も知らず、人肌の心地よさに抱き縋るだけの無垢な想い人に悟られぬよう、牙を研ぐ狼はほくそ笑んだ。


SS寄稿 莢咲星( https://x.com/WisteRi_Aria )

原藤

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